QCストーリーでつくる小品盆栽アーカイブ

1. 盆栽文化の発展と現状

専門知識や技術、技能があり経験豊富な人が人に教えると云うことは、教わる人の能力が加算され更に進化する素晴しさがあり、この手段で日本を代表する盆栽文化は成長してきたと考えられる。

然し、盆栽を趣味又は職業にしたいと考える人の目的は、異なりがあるものの共通していることは、教わる側に覚えたい、又は、覚えなくてはならないと云う条件が整っており、教える側も教わる側も抵抗なく現在に至ったのである。

現在の趣味者(愛好者)人口に限定して考えると、推定1800万人が盆栽を含む園芸を趣味にしたいと言っているが、「社団法人全日本小品盆栽協会」等の全国的ネットワークの中で小品盆栽を趣味としたいとするレベルの人口は、個別化や高齢化と共に減少しているのが現状である。

2. 指導者(講師)としての考え方

理念

「樹木に感謝し、慈しみながら、小品盆栽を通し、創造と温和を提供する」

テーマ

「プチ リゾートライフの提供」

指導手法

QC手法での「目標と実行計画を明確にした、5〜6名のチーム活動実践」

教宣活動のターゲット

「初心者を中心とした、草の根活動」

指導者としてめざす姿

「共に研鑽し合う、セクレタリー(水先案内人)」

趣味の範囲は多種多様であり、何よりも生活条件や家庭環境に左右され、日常生活が拘束される、管理が難しい等の意見が多く聞かれ、結果的に興味はあるが実践に踏み込めないのではないかと考えられる。

日本の製造業では問題点の解決手段や水準向上のためにQC(クォリティー、コントロール)手法を使うのが一般的であり、5〜6名編成でのQCサークル活動盛んである。

QC手法は、解らないものや出来ないものを、調査、解析、改善実施し、出来る様にする手法の一つである。
日本が世界に誇る生産技術は、このQC手法の上に成り立っていることを意識し、あらゆる場面で活用すべきである。

QC手法採用の理想は、小品盆栽を趣味にしたい希望の未経験者が5〜6名のチームをつくり、メンバー一人ひとりが役割分担して調査や検証し、解決方法をチームで検討、改善することによりメンバーのレベルが同レベルに向上することにある。即ち、QCサークル活動である。

ノーベル物理学者湯川秀樹は、「創造とは模倣である 模倣は商品の模倣ではなく プロセスの模倣である」と言っており、単に商品まねではなく、方法の真似をせよと言うのである。

盆栽の培養も「つくる」と言う観点で捉えるのであれば、現在を代表するものつくりの手法はQC手法である。

4. QCストーリーで小品盆栽をつくる

QCといっても小品盆栽つくりの場合、QC7つ道具や新QC7つ道具の全て使う必要は無く、必要に応じ使用すればよい。様は、QC的ものの考え方で小品盆栽に向き合うことが重要である。

例えば、メンバー全員で黒松の逸品を見たとしよう。
素晴しい、凄い、古い、上手に出来ている等の感想を話しあってもあまり参考にならない。
それは、見る人全てが異なるものさしであり、具体性にかけるからである。

QC的に観察して文字にすると可能な限り数値的把握(観測、観察)が大切になる。

【観察項目】
(1) 樹種三河黒松、推定樹齢○○年、購入先○○園、(購入金額○○万円)
(2) 樹高鉢上面から葉先まで○○センチの
(3) 左右(はばり)幹中心より右へ○○センチ、左へ○○センチ
(4) 太さ根回り○○センチ、根元径○○センチ
(5) 枝一の枝高さ根元右から○○センチ、同くい付き部径 ○○センチ 二の枝高さ根元左から    同上。 以後可能な限り 枝数○本
(6) 曲根元から左へ30度、R2センチで曲り、後へ5度曲りながら
根元から右へ35度、R1センチで曲り、前へ6度曲りながら
(7) 幹肌(目視)立ち上がり部肌割れ○○ミリ、肌割れ深さ○○ミリ
(8) 葉長○○センチ、葉色は濃緑色
(9) 鉢紫泥外縁雲脚長方、左右○○センチ、前後○○センチ(尚古堂)
(10) 植え付け位置鉢中心から左へ○○ミリ、後ろへ○ミリ
(11) 使用用土鉢上は赤玉8、桐生2、径○ミリ、水抜き穴部桐生5ミリ、矢作4ミリ、白カビあり

それは、同レベル又は、それ以上の黒松を作るときの具体的作業や素材購入判断の指針となるからである。一見不合理と思われるが数値的把握をすることで実践の具体性が整い、再現性に優れるのである。

即ち、愛好者に等しく、小品盆栽をやるための最低必要条件を満たす支援をすることであり、第1種運転免許証を取得出来ないF1ドラドライバー等存在せず、まず、第1種運転免許取得の支援をすることと共通している。

初心者が講師に対し、先生という。

教わる立場の方が敬意を払う気持ちは尊い。然し、人間、食や自然を見る感覚は12,700万人全て固有であることを忘れてはならない。

ミルクなど無い時代、乳の少ない母親が乳の豊富な婦人の貰い乳をした。
乳飲み子は貰い乳にむしゃぶりつき満腹になり、そして泣き喚く。
自分の母親の乳であれば満腹になると気持ちよさそうにウトウトする筈であるのに泣く。
それは、何かが違うと悟り異常を訴えるのであり、むなしさで泣くのだと思います。乳飲み子と云えども一人の人間であることを認識すべきであると考えます。

各々固有の感覚、感情、感性を尊重し、その中で成すべき指導教育の理念の自覚と何故小品盆栽なのかの哲学が求められるはずです。

時代が求める指導者とは、先生や師匠ではなく。共に学ぶ友でありテーマによってはセクレタリーである。セクレタリーは、自己の思い描くビジョンに賛同する若人を利己に流れず冷静に誘導する水先案内人でなくてはならない。

6. 小品盆栽用QCストーリー

【ものづくりとの比較】
小品盆栽つくりの場合物つくりの場合
チーム編成5〜6人5〜10人
背景何のために何のために
狙い全員のベクトルを合わせ、定量的視覚の育成不具合対策、水準向上を図り、定量的視覚の育成
目標それぞれの要望で経営にリンクさせる
現状調査問題点又は目標とのギャップの調査問題点把握
解析、分析全員でなぜ分析全項目の対策案検討QC7つ道具使用重点項目の対策案検討
対策全員が全項目実施分担で実施
効果確認何処がどのように向上したか又は劣化、枯れたかを数値で表す数値的把握、基点との比較等
歯止め標準化(事例集)標準化(マニュアル化)

※それぞれ数値的に現し、対象物の母数も5以上の平均値で現すと説得力が増す。説得力があれば、人は納得し、納得は、行動に直結する。

7. 取り組みのステップ

知っていることを教える。と言う短絡的意識は人の能力、才能を死滅させる。大先生は弟子(生徒)を死滅させることのより自己の存在を維持し、そして衰退する。

共に成長し、共に分かち合うステップは、次の様に考えます。
ポイントは、樹種やテーマを狭い範囲に絞り込みそれを多面的に、より詳細に調査、研究することだと考えます。
この狙いは「一に長ずれば万事に長ず」の醸成です。

ステップ1 樹木の生理と性質、特性の把握

樹木はどの様な生長の仕方(生理)をするのか(調べる、聞く)を知る。そして、どの様な地形や地質の場所に生息しているのか、その場所の生息するものはどの様な幹で、根で、枝で、葉なのか、実なのかを観察し、観察で得た判断を経験者に聞く又は書物で調べ性質を知る。更に、用土、肥料、病虫害、整姿、整形に対する抵抗力や幹、枝、葉、実及び生命力等の長所、短所(特性)を知る。等々。

ステップ2 盆栽は生き物であり、盆栽は樹木に対する虐待である

ミニ盆栽を見た婦人が「可愛いけれど、かわいそう」といった。云われてみればその通りである。特に小品盆栽を趣味とする者、大山罪の尊(山ノ神)に詫び、樹木に感謝する気持ちは、樹木を大切に扱うことに繋がり、丁寧で清潔感のある盆栽培養の根幹を成す。

ステップ3 小品盆栽つくりの目標と公差選定(許容範囲)

樹種、樹の形、幹の太さ、枝の数、枝の向き等各自の好みをモデルの盆栽や水墨画、写真を参考に(前例のない自分好みの独自な目標でも構わない)それぞれ数値的目標値と目標期日を設定し培養するのである。この時、目標に対して+?ゼロで培養出来れば理想であるが、物つくりにはバラツキがあり狙い寸法(目標)には、許容範囲(公差)を付けるのが一般的である。
よって、この公差が小さい程良い培養技術、技能といえる。

これらの設定値によって鉢の大きさや土の種類、大きさ、肥料の種類や施肥頻度が設定されてくる。

目標と公差の設定が必要な理由は、目標達成までのリスクが納得出来るためであり、外見や外野の批判も気にならない。目標が不明確の場合は、先輩方の意見やアドバイスに一喜一憂し節操のない盆栽つくりとなってしまうからである。

ステップ4 実行と検証の繰り返し、学びあう

ものつくりは、理論に基づく仮説を立て、実行(実験)と結果検証の繰り返しである。要は、時間をかけ正しく覚えたことを数多く実行することにより、次第に習熟訓練されるものである。

盆栽のプロは、長期間の修行により専門的知識技能を有するが、我々愛好者は専門的知識も技能も持っていない。幸い費やす時間は充分にあるため、正確にゆっくりとプロの何倍も時間をかけた丁寧な作業は我々にも出来るはずであり、アマチュアの責務と考える。

又、樹木は常に生長し、変化する。作業の実行は明日では遅い「今すぐ」が基本である。

ステップ5 情景の演出(飾り)

北斎や広重の絵画は、欧州の絵画と異なり情景の表現が主体である。即ち、欧州絵画が光と影の演出であるなら、彼らの絵画は情景演出と言える。光と影は具体的存在であるが情景(動き、時間、回想等)は絵の先にあるものを想像させる素晴しさがある。

日本に盆栽文化が定着したのには、北斎や広重の絵筆を樹木に替え表現した応用力にある。であるならば、小品盆栽も絵画等で云う?背景の選定(季節、時代、場所、バックボード)?物語の構成(席題、ストーリー性)?主人公の選定(力点の強調、見る人に自分を同期させる)?情景(懐かしさ、夢の実現)演出のフローを活用すべきである。

尚、形あるものには全てバランスが重要であり、日本でも相阿弥が配置、床飾り等で様式を云っており、軸バランスでは二対一比といっている。然し、現在は、エジプトで生まれた黄金比(黄金分割1:1.618)や黄金矩形が一般的配置点である。中学校の図工か職業の授業で分割比は1:1.6だ、タバコのケースはそれに近いと教えられたのを思い出す。樹形や鉢の形状で多少異なるものの、飾りの基本比とし、多少の±は状況に応じた視点で活用したい。又、日本建築などでは白銀比(1:1.5)も使われている。

私の場合、模様木は黄金比、直幹木は白銀比、株立ちは三阿弥比を使います。

ステップ6 維持管理

培養環境により異なり、自分の庭であっても日照、通風全てが違う。ステップ1に戻り特性把握の上、維持管理するのである。即ち、ステップ1〜6を繰り返すのが盆栽つくり、ものつくりと考え、繰り返すことでスパイラルアップするのである。