7. 取り組みのステップ

知っていることを教える。と言う短絡的意識は人の能力、才能を死滅させる。大先生は弟子(生徒)を死滅させることのより自己の存在を維持し、そして衰退する。

共に成長し、共に分かち合うステップは、次の様に考えます。
ポイントは、樹種やテーマを狭い範囲に絞り込みそれを多面的に、より詳細に調査、研究することだと考えます。
この狙いは「一に長ずれば万事に長ず」の醸成です。

ステップ1 樹木の生理と性質、特性の把握

樹木はどの様な生長の仕方(生理)をするのか(調べる、聞く)を知る。そして、どの様な地形や地質の場所に生息しているのか、その場所の生息するものはどの様な幹で、根で、枝で、葉なのか、実なのかを観察し、観察で得た判断を経験者に聞く又は書物で調べ性質を知る。更に、用土、肥料、病虫害、整姿、整形に対する抵抗力や幹、枝、葉、実及び生命力等の長所、短所(特性)を知る。等々。

ステップ2 盆栽は生き物であり、盆栽は樹木に対する虐待である

ミニ盆栽を見た婦人が「可愛いけれど、かわいそう」といった。云われてみればその通りである。特に小品盆栽を趣味とする者、大山罪の尊(山ノ神)に詫び、樹木に感謝する気持ちは、樹木を大切に扱うことに繋がり、丁寧で清潔感のある盆栽培養の根幹を成す。

ステップ3 小品盆栽つくりの目標と公差選定(許容範囲)

樹種、樹の形、幹の太さ、枝の数、枝の向き等各自の好みをモデルの盆栽や水墨画、写真を参考に(前例のない自分好みの独自な目標でも構わない)それぞれ数値的目標値と目標期日を設定し培養するのである。この時、目標に対して+?ゼロで培養出来れば理想であるが、物つくりにはバラツキがあり狙い寸法(目標)には、許容範囲(公差)を付けるのが一般的である。
よって、この公差が小さい程良い培養技術、技能といえる。

これらの設定値によって鉢の大きさや土の種類、大きさ、肥料の種類や施肥頻度が設定されてくる。

目標と公差の設定が必要な理由は、目標達成までのリスクが納得出来るためであり、外見や外野の批判も気にならない。目標が不明確の場合は、先輩方の意見やアドバイスに一喜一憂し節操のない盆栽つくりとなってしまうからである。

ステップ4 実行と検証の繰り返し、学びあう

ものつくりは、理論に基づく仮説を立て、実行(実験)と結果検証の繰り返しである。要は、時間をかけ正しく覚えたことを数多く実行することにより、次第に習熟訓練されるものである。

盆栽のプロは、長期間の修行により専門的知識技能を有するが、我々愛好者は専門的知識も技能も持っていない。幸い費やす時間は充分にあるため、正確にゆっくりとプロの何倍も時間をかけた丁寧な作業は我々にも出来るはずであり、アマチュアの責務と考える。

又、樹木は常に生長し、変化する。作業の実行は明日では遅い「今すぐ」が基本である。

ステップ5 情景の演出(飾り)

北斎や広重の絵画は、欧州の絵画と異なり情景の表現が主体である。即ち、欧州絵画が光と影の演出であるなら、彼らの絵画は情景演出と言える。光と影は具体的存在であるが情景(動き、時間、回想等)は絵の先にあるものを想像させる素晴しさがある。

日本に盆栽文化が定着したのには、北斎や広重の絵筆を樹木に替え表現した応用力にある。であるならば、小品盆栽も絵画等で云う?背景の選定(季節、時代、場所、バックボード)?物語の構成(席題、ストーリー性)?主人公の選定(力点の強調、見る人に自分を同期させる)?情景(懐かしさ、夢の実現)演出のフローを活用すべきである。

尚、形あるものには全てバランスが重要であり、日本でも相阿弥が配置、床飾り等で様式を云っており、軸バランスでは二対一比といっている。然し、現在は、エジプトで生まれた黄金比(黄金分割1:1.618)や黄金矩形が一般的配置点である。中学校の図工か職業の授業で分割比は1:1.6だ、タバコのケースはそれに近いと教えられたのを思い出す。樹形や鉢の形状で多少異なるものの、飾りの基本比とし、多少の±は状況に応じた視点で活用したい。又、日本建築などでは白銀比(1:1.5)も使われている。

私の場合、模様木は黄金比、直幹木は白銀比、株立ちは三阿弥比を使います。

ステップ6 維持管理

培養環境により異なり、自分の庭であっても日照、通風全てが違う。ステップ1に戻り特性把握の上、維持管理するのである。即ち、ステップ1〜6を繰り返すのが盆栽つくり、ものつくりと考え、繰り返すことでスパイラルアップするのである。